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2006年3月27日 (月)

サポティスタ対談(第8回)

※この原稿は、2006年3月27日に 「速報!サッカー24」にアップされた記事の再掲です。


2ちゃんねるから生まれた青春サッカー小説(サポティスタ/岡田康宏)


 2ちゃんねるの国内サッカー板で連載され「『電車男』より泣ける!」と大きな反響を呼んだ青春サッカー小説「俺が近所の公園でリフティングしていたら」が、今年3月、大幅な加筆修正を経て小学館から書籍化された。この作品でデビューした作家の矢田容生さん(34)と担当編集者の室田さんに話を聞いた。


◆ほとんど全編書き直しました
岡田(以下、岡):矢田さんは、もともと作家志望だったんですか?


矢(以下、矢):本は好きだったし、ですから文章を書くのは普通の人より得意かな、というのはあったんですけど、これまで自分で何かを書こうと思ったことはありませんでした。


岡:ということは、2ちゃんねるの「今日俺が一人で近所の公園でリフティングをしてたら」スレッドが、全てのきっかけになったわけですね。


矢:そうですね。ドメサカ(国内サッカー)板でこのスレッドを見つけて、長いタイトルだな、これはどんなネタなんだろうと思ったんです。きっと続きがあるんだろうと。でも、いつまでも続きが書き込まれない。そのまま埋もれてしまうには1さんの文章があまりに魅力的だったので、だったら自分で続きを書いてみようと。


 最初はリレー小説のようになってもいいかなと考えていたんです。書いている僕にしてみれば、冒頭を書いたのは他の方ですから自分の100%オリジナルの作品ではないんです。最初が借り物なのだから、自分で終わらせなきゃいけないとも思っていない。ある程度まで書いたら、誰かが続きを書いてくれたらいいなと。自分より上手く書ける人が現れたら、その人に委ねればいいし、そのへんは読み手がドライに評価するでしょうし。ところが最後の最後まで続いてしまって。


 最後の方はもうやめにくい雰囲気になっていましたからね。途中で誰かが引き継いでくれて、それが自分よりおもしろければそれで良いと思っていたんですけどね。


岡:その気持ちは分かります。僕がやっているサポティスタも立ち上げたのは友人だし、もっとおもしろいサイトを作るやつがいつかでてくるだろう、と思いながら続けているうちに今みたいになってしまって。


矢:やっている方としてはあるんですよね、そういう感覚。それも今回書いてみて初めてわかったんですけれど。


岡:出版社の方から連絡があったときはどうでした?


矢:最初は2ちゃんに書き込みがあったんですよ。正直、詐欺か、それとも自費出版の誘いかなと思いました(笑)。メールで連絡を取ると小学館さんということで、その心配はなさそうだ、と。実際に会って「やってみませんか」と言われたときに思ったのは、本当にこれを本にして大丈夫なのかなということですね。実名がらみの問題もあるし、文章の質の問題もありますし。ただ最初にお話を頂いたときから「書き直す」というのが前提だったんです。逆に「ネットのをそのまま出しましょう」と言われたら受けていなかったと思いますね。あのままでは本としては出せないと思ってましたから。読んだ方にどれくらい分かってもらえるか分かりませんが、書いた方としてはかなり書き直してるんです。構成も入れ替えて組み合わせているので、ほとんど全編書き直したようなものですね。それだけの手間をかけても本にしてみましょうと言ってもらえたので、だったらやってみようと。


◆青春小説の王道でもあるんです
室田(以下、室):最初、2ちゃんに書いたときの分量が700枚くらい。それを本では500枚くらいに削ったんですよね。


矢:ネットでは「一気に読みました」という感想が多かったから、700枚もよく読んでくれていたなと、驚きましたね。


室:小学館の内部の人間に読ませたら、サッカーを知らない人が読んでも「泣けた」という声が多かったんです。この小説はサッカーを通した青春小説としても成り立っていると思うんですよね。


岡:逆に、僕の周辺には濃いサッカーファンが多いんですけれど、そういった濃いファンが読んでもおもしろいって言うんですよ。サッカーものの文章の中には、サッカーファンが読んでおもしろいもの、サッカーファン以外が読んでおもしろいもの、どちらもあると思うんですけれど、両方をクリアーしている小説って本当に貴重ですよね。ネットで書いているときは、どういった層を対象に書いていたんですか?


矢:それが何も考えてないんです。スレッドの最初の文章自体がすごく魅力的で、あれを読むとやっぱり女の子が気になるじゃないですか。そうすると、その後の展開は2択だったんです。女の子の話で書ききってしまうか、「俺」の話に戻していくか。そこで選択がありまして。女の子で書ききろうとするとリアリティーなくなるなと。女の子が男に混じってという「野球狂の詩」路線はサッカーでは無理な話だし、なでしこジャパンで活躍してという展開だと主人公の「俺」の居場所がなくなってしまう。タイトルが「俺」になっているから、最後は「俺」の話にしないとあの話はオチないんですよね。それで「俺」の話で行こうと決めたんです。だから最後まで1の書き込みに沿って物語が進んで行くんですよ。


岡:読んでいて、職業作家の方には書けない勢いみたいなものをすごく感じました。


室:プロの方なら日本代表選手の名前を実名で書くことはしないですね(笑)。


矢:最初から本にしたい気持ちが少しでもあったなら、こんな話は書かないですね。そもそも人の立てたスレッドで話進めないですから(笑)。


室:恋あり、友情あり、青春の葛藤あり、様々な要素が詰っていて、青春小説の王道ではあるんですよ。なにげないエピソードがいいんですよね。小説は細かい描写が大切だから。みんな、それぞれ泣きどころがあるみたいで。はっきり言ってベタな話ではあるんですけれど(笑)。


矢:「これ、新しい話じゃないですよね」って、最初の打ち合わせで自分から言いました(笑)。ただ、書いているうちに気が付いたんですけれど、人が感動するところって昔からあまり変わらないんです。それは10年経っても20年経っても変わらない部分なんですよね。今回、書いていくうちにそのことをすごく勉強させてもらいました。


室:小説は書いた時点で作者のものから読者のものになりますから。1365円で幸せな気持ちになるか損したと思われるか。


矢:1365円で、できるだけ多くの人に楽しんでもらえればいいなと、本当にそう思います。

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